現在でこそピアノの鍵盤は88鍵ですが、イタリアのクリストフォリが1709年に発明した「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」は54鍵しかありませんでした。
54鍵しかなかった当時のピアノはさまざまな楽曲を生み出しましたが、音楽の発展とともにさらに豊かな表現を実現したいという要望が増え、時代の移り変わりとともに鍵盤は61鍵、73鍵、78鍵と増えていきました。現在のように88鍵となったのは、1890年頃だと言われています。
ただ、不思議なのは、ピアノの鍵盤は88鍵から増えたことがないという点です。その理由はいくつかありますが、最も有力なのは「人間が聞き取れる周波数には限界があるから」というものでしょう。人間が音程として聴き分けられる周波数は、20~4,000ヘルツの範囲となっています。ピアノは27.5ヘルツ~4,186ヘルツなので、これ以上鍵盤の数を多くしても人間の耳では聴き分けられないのです。
その他にも、鍵盤数が多すぎるとピアノの横幅が長くなり、部屋に入れられなくなるなどの問題も理由として挙げられます。
ピアノの鍵盤は88鍵であるのが一般的ですが、実はそれ以上の鍵盤数を持つピアノも存在します。具体的に、ベーゼンドルファーのグランドピアノ225の鍵盤数は92鍵ですし、コンサートグランド290インペリアルの場合は97鍵です。
鍵盤数が多いほど響板面積も広くなるので、豊かな表現ができるようになります。とはいえ、演奏可能な音域が広がっても88鍵以上の音域に対応した楽曲が存在しないため、実際に使用されるのは従来のピアノと同じ鍵だったようです。
一般的なピアノの鍵盤数よりも9鍵多いエクステンドベースは、低音の響きをより重厚にするために作られました。他の鍵盤とは違い、本来白鍵である部分も黒く塗られているのが特徴です。黒く塗られているのには、奏者が混乱しないようにという理由があります。エクステンドベースを使った楽曲はいくつかあり、どれも中低音の響きが非常に豊かです。
ピアノの鍵盤は88鍵ですが、音をつかさどる弦は鍵盤の約3倍である230本ほども存在します。弦の本数はメーカーによって異なりますが、中~低音領域では鍵盤1つに対して弦が3本ずつ貼られており、最低音へ向かうにつれて本数が減っていく点は共通です。
弦の太さは低音ほど太く、高音へ向かうほど細くなります。複数の弦で音を出す理由は、より大きな音を出せるようにするためです。また、複数の弦を弾くことで、より音が響きやすくなるのも理由として挙げられるでしょう。なお、音の響きを豊かにするために、3本の弦はそれぞれ高さを微妙に変えています。
グランドピアノもアップライトピアノも、鍵盤の数は共通して88鍵です。しかし、キーボードにおいては、88鍵以下のものも多いでしょう。「鍵盤数の少ないキーボードでもピアノの練習ができるのか」と悩む人いるかもしれませんが、クラシックを弾くのであれば88鍵が必須です。
ピアノの鍵盤数は1890年頃から現在のような88鍵になっており、作曲家のほとんどは表現力を最大限発揮するために88鍵のピアノを使っています。楽譜も88鍵での演奏を想定して作られており、楽曲の中にはそれ以下の鍵盤数では弾けないものもあるでしょう。
弾きたい楽曲の音域が狭い場合、88鍵揃っていなくても問題はありません。実際に、最低音や最低音を弾く楽曲は少ないです。しかし、前述したとおり、数々の名曲を世に送り出してきた作曲家たちは「ピアノ」で演奏するための曲を作っているため、88鍵揃った状態で練習するのがおすすめです。